回転する輪列の動きを、限られた角度の往復運動へ変える。代表的なレトログラード機構では、周期の位置を決めるカム、その輪郭をたどるラックやレバー、針を送る歯車、復帰の力を蓄えるばねが連携します。
ブレゲが公開しているトラディション レトログラード デイト 7597では、24時間輪の指が中間車を介して31歯車を毎日1歯進めます。31歯車と一体のスネイルカムには、31の丸い段と周期終端の急な落差があります。カムが1段回るたび、輪郭を追う調整指がラックを動かし、日付針を153度の弧へ送る構成です。
日付針の歯車につながる第2ラックは、日付が進むたびに板ばねをしならせます。31日の次に指がカムの落差へ達すると、板ばねの力でラックが反対方向へ動き、日付針は1へ戻る。板ばねには、ラックをカムへ接触させ続け、針の遊びを抑える役目もあります。図はこの一連の動きを四段階に分けたものです。実際の部品形状や停止方法はキャリバーごとに異なります。
速く戻すだけなら、針は始点を通り過ぎたり、反動で隣の目盛りへ跳ねたりします。必要なのは、終点まで安定して進め、決められた瞬間に解放し、始点で止め、次の送りへつなぐこと。パテック フィリップのレトログラード式永久カレンダーでも、復帰用ばねに加え、針の跳ね返りを抑える制御が説明されています。
戻る針には慣性がある
針が長くなるほど、先端は大きな距離を移動します。表示角度を広げれば数字は読みやすくなりますが、復帰時に動かす範囲も広がる。二本の針を同時に戻す構成や、時分のように頻繁に逆跳する構成では、復帰の衝撃と次の表示との同期をより細かく整える必要があります。
外から見えるのは針だけです。しかし、その裏では「進める力」と「戻す力」が同じ表示を受け持っています。送りの途中でばねの力が針を引き戻さないこと、解放後には歯車の遊びが位置ずれとして現れないこと。静かに進む時間から一瞬の復帰までが、一つの周期をつくります。